#2 Guide Shopが教えてくれたこと ー“着物を日常に”という夢の実験

温かい居場所から、次のステージへ。

我慢強く真面目なスタッフのひとことが、不思議と心にすっと響きました。

「ゆきさん・・・狭くて仕事、できません・・・」

前回のブログ「#1 はじまりの場所 – “着物を日常に”という夢の原点」の続きです

https://www.kimonomodern.com/blog/?p=15540

息子がまだ小学生で、学校帰りに友達を連れてきてはおやつを食べたり、段ボールで工作をしたり。仕事場でありながら、あたたかい居場所でもあったあの場所を離れるのは、少し切なさもありました。

でも、定期的に訪れる“入荷の嵐”と段ボールの山を見て、「もう限界だな」と静かに思いました。それが、次のステージ ー Guide shopのはじまりでした。

目次


直感で決めた、新しい場所。

物件探しを始めると、
隠れ家のような一軒家を改装しようか、それとももっと開けた場所がいいのか……。

いろいろ考えているうちに、薬院駅からほど近い、ビルに出会いました。1階が駐車場、2階と3階が事務所になった一棟ビル。

初めて足を踏み入れた瞬間、
「ここだ」と直感。すっかりうれしくなりました。

ただ、申込は3番手。
「ご縁があれば」と思っていたら、まさかの繰り上がり当選。すぐに審査が通り、あっという間に新しい拠点が決まりました。

1階は店舗に改装、2階と3階はオフィス兼撮影スペース。
効率よく、働きやすく。そんな想いを込めて準備を進めながらも、どこか1階の店舗スペースがイマイチ“しっくりこない”感覚が残っていました。


ニューヨークで出会った「Guide Shop」という発想

そんな時、あるご縁でニューヨークのファッションショーを手伝う機会がありました。その旅で出会ったのが、“Guide Shop”という新しいECと小売の形

当時アメリカでは、アパレルブランドが“販売しない店舗”を次々にオープンしていました。実際に足を運んだ「Everlane」の店舗はビルの8階。
路面の人気店が閑散としている中、なぜかそのエレベーターにだけ人が次々と吸い込まれていく。

扉が開くと、そこは活気に満ちたフロア。
けれど販売員はわずか2人。
お客様たちは自由に洋服を手に取り、試着をし、設置されたパソコンでオーダーをしていました。

そこには“売ろうとする空気”が一切なく、むしろ**「売らない心地よさ」**が流れていたのです。


「売らないお店」に見えた、未来の着物屋の形

その時ふと思いました。

日本の呉服業界では、
「敷居が高い」「行くと買わされる」「怖い」という声をよく聞きます。展示会で複数の販売員に囲まれたり、必要のない高額品を勧められたり――
そんな話を何度もお客様から聞いてきました。

でももし、
**“売らない着物屋”**があったら?

ただ気軽に着物を触って、
試して、話して、楽しむ。
それだけで十分じゃないか。

KIMONO MODERNはもともとECの会社。
だからこそ、店舗で無理に売り上げを立てる必要がなかった。
そしてこの一棟ビルなら、スタッフが2階や3階で仕事をしていても、来店があればすぐ降りて接客できる。固定の販売員を置かなくても運営できる仕組みがすでに整っていました。

お客様の体験と、会社の生産性。
その両方を両立できるモデル――
それが「試着専門店」という答えでした。


日本初の“試着専門 着物店”へ

帰国後すぐにコンセプトを固め、
2017年12月、**日本初の試着専門店「KIMONO MODERN Guide Shop」**として福岡・白金にオープン。

「無理に買わなくていい」「まずは触れてみてください」
そのスタイルは多くのお客様に喜ばれ、全国から「私たちの街にもオープンしてほしい」という声が届きました。

新しい形に挑戦する勇気をくれたのは、スタッフ、協力者、そしてお客様の存在でした。


コロナ禍という壁、そして再び“つながる場所”へ

2019年から、想像もしなかった時代が始まりました。
外に出ることさえ難しくなり、着物を着ることも“不要不急”の枠に入れられた。

幸い、EC基盤が強かったKIMONO MODERNは事業を続けられたけれど、「人と会う喜び」が消えた世界に、心がぽっかりと空きました。

そんな中、得意先の岡本商店さんから
「東京・自由学園でささやかに、一緒に展示をしませんか」と声をかけていただきました。

コロナ真っ只中、なんとなくはばかられて大々的に告知もできない中、そっとインスタで発信したところ、「午後休とってきました」「会社休んできました」と、たくさんのお客様が駆けつけてくださいました。

「東京でも、商品を見られる場所はないんですか?」
その言葉が、次の決断を促しました。


そして東京へ ― コロナの中でも灯りをともす場所を。

「大きなイベントがなくても、
ただ人と会える場所を作りたい。」

そんな想いで探したのが、南青山・根津美術館のすぐそばの静かなスペースでした。


2階の小さな空間。
路面ではないけれど、人目を気にせず、着物を愛する人たちが集まれる穏やかな場所。

それが、現在のGuide Shop Tokyoです。

コロナ禍では営業を制限しながらも、
「KIMONO MODERN部」という新たなコミュニティを創設したり、レッスン、コラボイベントの開催、インスタライブの発信基地として、“ただ会うだけで心が満たされる時間”を重ねてきました。

お客様が笑顔で
「楽しかった、また来ます」と帰っていく姿。
その背中を見送るたびに、私たちスタッフの心もあたたかくなりました。


次回につづく ― Guide Shopが育てた“つながりの文化”

そして2025年。
Guide Shop Tokyoは4周年を迎えました。

「コロナもようやく終わったね」
そう笑い合える日々が戻ってきた今、私は改めて思います。

Guide Shopとは、店舗ではなく、着物を通して生まれた”つながりの場所”であり、“文化”だったのではないか、と。

次回は、その”つながりの場所”をどう未来へと進化させていくのか。
KIMONO MODERNが描く次のステージをお届けします。

「#1 はじまりの場所 – “着物を日常に”という夢の原点」

https://www.kimonomodern.com/blog/?p=15540